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ガルシア・マルケス『族長の秋』感想

 

族長の秋 他6篇

族長の秋 他6篇

 

そもそもこの新潮社のマルケス全集は、新訳ではなく各社に散っている翻訳を集めたものらしい

 

集英社のこれと

 

エレンディラ (ちくま文庫)

エレンディラ (ちくま文庫)

 

これをワンパックにした本のようだ

 

確かエレンデイラは買った記憶があり、表題作は読んだ記憶が残っていた。

 

 

が、未読だった、単行本の第一の短編

大きな翼のある、ひどく年取った男

からまず読んだ

 

漁村に翼の生えた男がやってきて、天使であることを司祭などは疑うが、まるで奇跡らしいこともせず、見世物のように鶏小屋に閉じ込められていたところ、ある日翼が生え変わって飛び立った、という話になる。

落語みたいな話だ(人魚あたりに置き換えたらそのままありそう)。あるいはさらば青春の光のコントみたいな話というか。

本来のあるあるお話みたいなのが、一つずれているところから、関係者全員を微妙な反応にしていく、そんな感じの話である。

 

途中、見世物小屋の蜘蛛女が出てきて、そいつとの対比になるところが、小咄らしさを際立たせている。見世物小屋なのて「因果応報」と「教訓談」みたいなものを彼女自身は語っていて、その説得力と村民の感動に比べて、何でもないこの羽があるだけのみすぼらしい男は何なんだ…という対比である。説話論的なわかりやすさと端的によく分からないものが対比されているわけだ。

しかしまあその対比自体がもうベタな構図過ぎてこちらとしては困惑してしまうところがある。

 

ラストは翼の男を拾った家の夫人が、彼か飛び去ったことを全然気にしていない、というので終わる。無意味なものに対して正しい態度だったのかもしれないが、無辜の民衆の知恵の讃歌みたいなものにするには、この人も儲かった金でいい服を買ってみたりと、どっちつかずの人である。子供も翼男をいじめてるし。(そういうオチが欲しくなるような、ベタな構図なのだ)

 

かくして、今のところ単にベタな話で、お話批判のお話というのが印象であった。解説によれば族長の秋執筆のために童話を描いたものの一つということだから、そんなものなのかも知れないが。

 

奇跡の行商人、善人のブラカマン

不死の薬などを売るペテン師に買われた主人公の青年、ただし生活は全く楽でなく、おかしくなったペテン師に虐待されてしまう日々。ある日突然万病を治す奇跡の能力に主人公は目覚め、安い値段で人々を救いつつほどほどにいい暮らしをする一方、ペテン師を墓の下で何度も復活させて動物のようにみじめに暮らさせるという復讐をしているのだった。

 

上の翼の短編に比べると短くて遥かに小気味よく、オチも決まっている。街に胡散臭い商人が来て〜というイントロは確か百年の孤独と同じじゃないかな。

 

同じ奇蹟の力が両方に左右すること、どこか主人公が世間体を意識している(ペテン師の墓の名前を本当はめちゃくちゃにしたかったが穏当なものにしたとか)し、稼いだ金でする生活の欲望もほどほどなのに、永遠に恐ろしい罰を与えるという復讐心と釣り合っていないのが、いかにも人間らしい。